

憧れとは違うけれど、初恋の人のように忘れられないクルマ。
それが私にとって、いすゞの117クーペである。
憧れという意味では、フェラーリやポルシェあたりが不動の人気だろうが、
それは芸能人やトップモデルへの人気と似ている。
一方、初恋的なクルマというのは、
人それぞれの思い出の中にあるクルマだから、千差万別でいい。
幼少期に父が乗っていたのが、量産初期型、いわゆる丸目の117クーペだった。
1977年のマイナーチェンジで、後期モデルはヘッドライトが角目になり、
それと区別するために初期モデルは丸目と呼ばれている。
森のように深いグリーンメタリックの車体を眺めては、
幼心に「ウチのクルマは、なんてかっこいいんだろう」と密かに自慢だった。
我が家には「車と仏壇は、よごれた手で触ってはダメ!」というルールがあったが、
その流線形のボディや、サイドに埋め込まれたジウジアーロのロゴに
家族の目を盗んでは、触れた思い出がある。

フロントには唐獅子のエンブレム、
そして、ドア上だけでなくリアコーターガラスも三角で、
開けると空気の流れを作っていた。
そう言えば、あの頃のクルマは、
車内にいても風を感じて走っていた気がする。
家族で出かけるときには、いつでもクルマで、
70~80年代、我が家の中心にはマイカーの存在があった。
その幸せな思い出と共に、117クーペには今も愛着を感じている。
私にとっては初恋のクルマなのである。
だが、今、50~80万円程度で購入できる117クーペを自身で購入するか?と
問われれば、「ごめん、無理!」というのが正直なところ。
車体価格よりも、その後のメインテナンスにどれだけのお金と時間がかかるやら。
それに1975年、日本で最初に施行された自動車排ガス規制にひっかかって
シリーズのひとつがカタログ落ちしたぐらい古風なエンジンを積んでいる。
もはや現代において、これで走ることは、
歩きタバコ並みにマナー違反と言われかねない。
恋は美しい思い出だけれど、現実の生活にはマッチしないのだ。
憧れても手に入らないのが、初恋ってモノよね・・・
などとロマンチックに思いを馳せていたが、
この初恋を叶えた人がいる!?との噂を耳にした。
その人は、四半世紀前のシティ カブリオレを
コンバートEV(改造電気自動車)として復活させ、
日常使いしているというのだ。
なるほど、これは会いに行くしかあるまい!
というワケで、噂のカーオーナーを訪ねた。


待ち合わせは、横浜赤レンガ倉庫。
そこへ、朝の光に映えるアクアブルーのシティがやってきた。
往年のヒット商品「ホンダ シティ カブリオレ」の走る姿は、
道行く40~50代の視線をくぎづけにしている。
EV化されたことで、ほぼ無音で加速し、目の前に止まったが
その走りはスムーズで、まさに、26年前の名車の復活である。
日常使いには全く問題なく、
それよりも愛着がわいて、乗ることが楽しい毎日だと言う。
彼の、我が子を自慢する親のような表情が、
クルマ好きの全てを物語っていた。
今の時代、こんなにもトキメキを感じながら
日々、車に乗っているカーオーナーは、そう多くないだろう。
その顔には、懐かしい輝きがあふれていた。
そんなシティのオーナーである古川 治氏は、
カーアフター事業を手がける(株)オズコーポレーションの代表取締役。
私が取材をした時は、日本EVフェスティバル2010にて、
このシティで、展示部門パフォーマンス賞を受賞した直後だった。
ではなぜ、彼はシティ カブリオレを選んだのだろうか?
その理由を彼は、こう語った。
「80年代ぐらいまでの車って、見た目や雰囲気に愛着を感じたり、
所有欲をかき立てる魅力があったと思います。
その楽しかった時代の雰囲気を、もう一度復活させたかったんですよ。
シティってのは全世界で100万台を売り上げたヒット商品。
多くの人の記憶に残っていると思うし、オープンカーってところもいいんです。」
そう、確かに今の時代、クルマはより便利で低価格になったが、
製品としての個性は薄くなり、移動の手段、単なる道具となっている面が強い。
70~80年台のクルマには、魅力と、そして夢があった。
単なる懐古趣味だなどと、笑わないで欲しい。

当時、クルマを愛したのは、古き良きアメリカの黄金時代、
いわゆる50′s(フィフティーズ)に憧れた団塊世代である。
ベビーブーマーである彼らが20~30代の時に、
自分たちの青春の象徴としたのがクルマだった。
しかも、その頃の製品には、今の時代にはない手仕事の名残りと
量産化のための機能性が両立しているのが見てとれる。
食器で言うならファイヤーキング、
家具ならミッドセンチュリーの流れをくむ近代デザイン。
それらと同じ感覚が、クルマにもあったのである。

1984年に発売されたカブリオレは、
当時、国産唯一のフルオープンカーとして注目された。
フェラーリで有名なピニンファリーナがスタイリングを手がけた名車であり、
また、少量生産の特徴を生かして、当時としては非常に多い
12色ものボディーカラーが用意されたことでも話題になった。
その頃のクルマというのは、作り手の顔が見え、個性があり、
それゆえに所有する喜びを感じられる、愛着のかき立てられる製品だったのだ。
科学技術と違って、デザインというのは、新しければ優れているとは限らない。
名作というのは、トレンドや時代を超えて多くの人に愛される。
それは、デザインに愛が込められているからではないだろうか。
乗る人に、こんな楽しみを感じさせたい。あんな体験をしてもらいたい。
そういう作り手の思いがあふれている。
安全基準のような数字では表せないものだ。
作り手の愛や粋を感じ、使い手がそこに愛着を持つことは、
時代を超えて、モノとユーザの間に人間的な絆をもたらす。
車に乗るたびに、そうした絆を感じられることは、
乗り手の人生を豊かにするだろう。
愛着あるモノに囲まれた暮らしは、人の心を優しく豊かにする。

しかしながら、魅力とデザイン価値では目減りのないクルマも、製造から30~40年経っているので、
工業製品としてみれば、劣化はかなりなモノ。
そのメインテナンスにかかる費用と時間は、けっして小さくはなく、
また、燃費・排ガス性能においては、現在の新車とでは比べものにならないほど劣っている。
単なるコレクションではなく、日常使いのクルマとするなら
これらの問題点は無視できない。
これらを一挙に解決できるのが、コンバートEVだと古川氏は言う。

しかしながら、魅力とデザイン価値では目減りのないクルマも、
製造から30~40年経っているので、
工業製品としてみれば、劣化はかなりなモノ。
そのメインテナンスにかかる費用と時間は、けっして小さくはなく、
また、燃費・排ガス性能においては、現在の新車とでは比べものにならないほど劣っている。
単なるコレクションではなく、日常使いのクルマとするなら
これらの問題点は無視できない。
これらを一挙に解決できるのが、コンバートEVだと古川氏は言う。
「ノスタルジックカーのボディや雰囲気を残しつつ、
時代にそぐわせるのがコンバートEVです。
メカニカル面でも安全になり、整備の手間もずっと少なくなりますよ。
今回のEV化にあたっては、走りを重視し、
バッテリーとモーターのバランスを考えて作ったので、
スムーズな加速感と、120~130km/hの高速もしっかり出る、
パワフルなクルマに仕上がっています。
正直、思ったよりもいい車ができましたね。」
と、自信をのぞかせ、
すでにかなりの手応えと満足感をつかんだ様子。
つまり、名車と呼ばれるノスタルジックカーをEV化で蘇らせることは、
愛着あるクルマとのカーライフを、
走行性能、環境性能の両面からも可能にすることなのだ。
彼は、「エコと向き合う楽しいクルマ社会を拓く」を企業理念にかかげ、
2009年には後付け型アイドリングストップシステムを自社開発した。
1994年の創業以来、カーアフター事業を手がけてきた実績と
高いエコ意識が、ここにきてコンバートEVという結果に結びついたのだろう。
「昔はクルマって、カッコいいことや速いことが大切でした。
でも、今の時代は、自分の楽しみだけでなく、周りを考えなきゃいけない時代ですね。
モータースポーツとEcoを両立させるのが、これからの在り方です。」
と、彼はその心中を語った。
環境を配慮しながら自分の楽しみを活かす。
そうした新しい価値観が、いま着実にひろがっている。
Ecoのために我慢するのではなく、テクノロジーを使って
快適に環境と共生することこそが、サステナビリティの鍵。
さらにそこへ、「クルマの楽しみ」をプラスしていった結果、
新しいカーライフが生まれたのだ。


そして、カブリオレモデルに彼がこだわった理由は、オープンカーの魅力。
「最近の若い世代は、オープンカーに乗った経験が少ないんですね。
だから、試乗すると、走りながら風を感じるってことに、
とても新鮮な感動を覚えるみたいです。
排ガスを出さずに、オープンにして走っていると、
空気を汚さない車がもっと増えればいいのにって、自然と思えてきますしね。」
そう、カブリオレで走れば、
その車窓から眺める風景、太陽の光や風を感じながら、
空気をよごさずに走っていることが、素直に体感できるに違いない。
人にもクルマにも愛情が感じられるカーライフには
人の心を豊かにし、社会をよりよくする力がある。
モッタイナイから、古いクルマを使うのではない。
もっと積極的に、昔憧れたあのクルマともう一度走る楽しみを手に入れる。
「宝くじでも当たったら、あのクルマ買いたいけど・・・」
そんな気持ちを胸に抱きながらも、me
実際のところは、自分の残りの人生の中で、
「あのクルマは、思い出で終わるんだろうな」と思っていたことが
今なら、簡単に手に入れて楽しめるようになったのだ。
それは、クルマの楽しみと、排ガス削減が両立する光景であり、
ヒューマンタッチな心温まる環境社会の到来である。
そして、これはちょっとした革命かもしれない。
ノスタルジックカーを愛用するためには、
そのメインテナンスに多くの時間とコストを投じる必要があり、
今までは一部のカーマニアにのみ許されてきた趣味だった。
しかしコンバートEVは、この楽しみを、一般に広く門戸を開いたのだから。


横浜ランドマークタワーの駐車場に、
充電スポットが常設されているのを発見。
私たちがコーヒーを飲む間、シティくんも200V充電で、お腹いっぱいに。
こうした充電スポットが街中に増えていくと、EVの楽しみ方も広がるだろう。

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藤崎 麻衣 多摩美術大学卒業。アートディレクター、mg(ミリグラム)代表として、消費者向け商品・サービスの広告制作を手掛ける傍ら、「価値ある仕事・価値ある買い物」をキーワードに、製品やサービスに埋め込まれた技術やこだわりの価値を最終消費者に伝達するための文筆活動を行う。 2007年より無垢家具ブランド「Denn Style(デンスタイル)」ネットショップ http://www.denn-style.jp/ を立ち上げ、商品企画・販売も行っている。 |
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